田畑に囲まれた、奈良県いかるが町の敷地。
計画は、田んぼの造成から始まった。
すべてを宅地化するのではなく、
建物が建つ場所だけを静かに整え、
それ以外は風景として残す。
擁壁で切り分けるのではなく、
法面によって緩やかにつなぐことで、
敷地と周辺環境の境界を曖昧にしていく。
この家は、環境から切り離されるのではなく、
風景の中に“居場所を差し込む”ように考えている。
周囲には視線がある。
農作業をする人の気配も日常にある。
それらを遮断するのではなく、
距離と配置によってコントロールする。
建物の中心に中庭を据え、
LDKと子供スペースで挟み込む構成とすることで、
外からの視線を受け流しながら、
内側に開いた安心できる居場所をつくる。
中庭は、ただの庭ではなく、
家族の時間を受け止めるもうひとつのリビング。
BBQや庭遊び、
子供の気配を感じながら過ごす時間。
外にいながら、守られている。
そんな場所を目指した。
さらに、家の中にいても季節を感じられるよう、
中庭だけでなく、玄関脇やサニタリーにも
小さな庭を点在させている。
視線が抜ける先に、緑や空がある。
光が回り込み、時間の移ろいが伝わる。
閉じながらも、完全には閉じない。
そのバランスが、この家の空気をつくっている。
リビングには、小さな段差を設けた場所がある。
そこには、グランドピアノが置かれる。
日常の中に、少しだけ非日常を差し込むように。
音楽が流れる時間、
家族が自然と集まる場所。
この“少しの特別”が、
暮らしの質を静かに引き上げていく。
平屋とすることで、
すべての空間が連続し、
視線と気配がゆるやかにつながる。
どこにいても、家族の存在を感じられる距離感。
それは、広がりではなく、
“つながり”によって生まれる心地よさ。
風景に対して開くのではなく、
風景との距離を丁寧に整える。
閉じることで得られる安心と、
抜けによって感じる広がり。
その両方を持つことで、
この場所にしかない暮らしが立ち上がる。
■建築地 :奈良県生駒郡
■用途 :住居
■構造・規模:木造平屋建て
■敷地面積 :346.23 m2
■建築面積 :121.46 m2
■延べ床面積:116.26 m2
■1階床面積 :116.26 m2
■外壁 :ガルバリウム鋼鈑一部モルタル下地の上吹き付け
■屋根 :ガルバリウム鋼鈑
■内部床 :杉板、モルタル金こて押え(事務所部)
■内部壁 :クロス貼
■内部天井 :クロス貼
■撮影 :冨田英次
