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ジグザグに道を歩くと。 ― 密集した住宅地で、光を考えた家

2026年08月28日

 

 

 

ジグザグに道を歩くと。

― 密集した住宅地で、光を考えた家|伊勢町の家

 

前回、15年前に設計した「密集地だから、豊かな家ができた」という家について書きました。

今回も、周囲を住宅に囲まれた土地に建つ家です。

ただ、今回は少し違うところから、この家のことを考えてみたいと思います。

それは、敷地を見ることではなく、
駅からその敷地まで、歩いてみること。

その道のりが、今回の家を考えるきっかけになりました。

 

駅から敷地まで、ジグザグに道を歩く

 

伊勢町の家は、兵庫県芦屋市の住宅街の中にあります。

駅から敷地へ向かって歩いていくと、道はまっすぐではありません。

右へ曲がって、また左へ。

少し進んで、また曲がる。

住宅街の中を、ジグザグに歩いていきます。

歩いていると、当然ですが、自分の身体の向きもそのたびに変わります。

さっきまで見ていた方向とは、まったく違う方向を向いて歩いている。

そんなことを繰り返しながら、敷地へ向かいます。

 

向きを変えると、光の向きも変わっていく

 

その道を歩いていて、ふと気になったのが光でした。

住宅に囲まれた街なのに、暗い場所だけが続いているわけではない。

建物の影の中を歩いていたと思えば、次の角を曲がったところで、ふっと明るくなる。

また少し歩いて向きを変えると、今度は別の方向から光が入ってくる。

自分がジグザグに歩いていくのに合わせるように、光と影の見え方も変わっていきます。

太陽は同じ場所にあるはずなのに、街の中では、歩く方向によって光の感じ方がまったく違う。

それが少し面白く感じました。

 

住宅に囲まれていても、光はなくならない

 

この家の敷地も、周囲を住宅に囲まれています。

こういう土地を見ると、まず「光が入りにくい土地だ」と考えるかもしれません。

確かに、周囲に家がある以上、南側に大きな窓をつくって、そこからたっぷり光を入れるというような、単純な考え方はできません。

でも、実際にその街を歩いてみると、少し違う景色が見えてきます。

家と家の間。

道路の向き。

建物の高さ。

そして、そのときの太陽の位置。

そうしたものが重なって、住宅地の中にも、ちゃんと光が差す場所ができています。

住宅に囲まれていることと、暗いことは、必ずしも同じではない。

そう思いました。

 

だったら、その光を家の中にも

 

街を歩いていて見つけた光。

それを、そのまま家の中に持ってこられないだろうか。

この家を考えるとき、そんなことを考えました。

周囲の住宅をなくすことはできません。

敷地を広げることもできません。

だったら、今ある環境の中で、光が入ってくる場所を探せばいい。

そして、その光の入り方を家の中に取り込めばいい。

そう考えると、目を向ける場所が少し変わってきました。

外壁ではなく、屋根です。

 

光の入り方を、屋根で考える

 

周囲を住宅に囲まれているなら、外に向かって大きく開くことだけが答えではありません。

むしろ、周囲の建物の影響を受けにくい上から、光を取り込むことができる。

そこで、屋根にスリットを入れることを考えました。

そして、その形を考えるときに残っていたのが、駅から敷地まで歩いてきたときの「ジグザグ」でした。

右へ、左へ。

向きを変えるたびに、光の方向も変わっていく。

その感覚を、家の断面に置いてみる。

 

屋根にも、ジグザグをつくる

 

屋根に、ジグザグのスリットを設けました。

街を歩いたときのジグザグを、そのまま形にしたというほど単純ではありません。

でも、あの街の中で感じた、向きが変わることと、光の方向が変わること。

その感覚を、建築の中にも持ち込んでみたかった。

結果として、屋根はジグザグになりました。

そして、そのスリットが光を受け取る場所になります。

 

 

スリットから、光が落ちてくる

 

屋根に設けたスリットから、太陽の光が家の中へ入ってきます。

外から見ると、ただの屋根の形に見えるかもしれません。

でも、家の中に入ってみると、その形が光の入り方をつくっていることが分かります。

時間が変われば、光の位置も変わります。

朝と昼では違う場所に光が落ち、季節が変われば、その感じ方も変わっていく。

家の中にいながら、外の時間が少しずつ動いていきます。

「明るい家をつくる」というより、
外にある光の変化を、家の中にも持ってくる。

そんなことを考えていました。

 

ジグザグは、デザインのためではなかった

 

完成した家を見ると、どうしても屋根のジグザグに目がいきます。

少し特徴のある形です。

でも、最初から「ジグザグの屋根をつくろう」と考えていたわけではありません。

駅から歩いてきたこと。

住宅街の中を何度も曲がったこと。

そのたびに、自分の向きが変わったこと。

そして、光の向きも変わっていったこと。

その中で見つけた光を、家の中にも入れてみたいと思ったこと。

そこから、少しずつ形が決まっていきました。

だから、この家のジグザグは、形をつくるための形ではありません。

その場所で見つけたものを、建築にしていった結果です。

 

土地を見るということ

 

土地を見るというと、方位や道路、高低差、敷地の形、周囲の建物などを調べることを思い浮かべると思います。

もちろん、それは大切なことです。

でも、建築を考えるときには、それだけではないと思っています。

実際にその場所を歩いてみる。

どんなふうに道が続いているのか。

身体がどんなふうに向きを変えるのか。

どこで光が変わるのか。

どこに影ができるのか。

そういうことも、その土地が持っている情報です。

伊勢町の家では、それが「ジグザグに道を歩くこと」でした。

 

 

密集地だから、見つけられた光

 

前回のブログでは、密集地だからこそ生まれた豊かさについて書きました。

今回も、同じように住宅に囲まれた土地です。

ただ、今回はそこにある「光」に目を向けました。

たくさんの住宅があるからこそ、建物と建物の間に光と影が生まれる。

道の向きが変わるから、光の見え方も変わる。

そう考えると、密集していることは、単純に「光が入りにくい」ということだけではありません。

その土地には、その土地なりの光の入り方がある。

それを見つけてみる。

そして、それを建築にしてみる。

伊勢町の家では、そんなことを考えました。

 

おわりに

 

駅からこの家まで、何度も道を曲がりました。

ジグザグに歩いていくと、そのたびに身体の向きが変わる。

そして、光の向きも変わっていく。

住宅に囲まれた街なのに、光がなくなることはありませんでした。

その光を、家の中にも持ってきたかった。

だから、屋根にスリットをつくりました。

そして、結果として屋根はジグザグになりました。

建築は、何もないところから形をつくるのではなく、
その場所ですでに起きていることを見つけることから始まるのかもしれません。

土地を見て、歩いて、感じてみる。

そこにあるものを、少しだけ建築の中に持ってくる。

伊勢町の家は、そんなふうにして生まれた家です。

 

コンテナデザイン きしもとたかのぶ

 


前回の「密集地」の記事もぜひ

今回の伊勢町の家と同じく、住宅に囲まれた土地から建築を考えた家について、前回の記事でも書いています。


密集地だから、豊かな家ができた|15年前に設計した家を訪ねて

 


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