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密集地だから、豊かな家ができた|15年前に設計した旗竿敷地の住宅

2026年08月17日

 

 

 

密集地だから、豊かな家ができた|15年前に設計した旗竿敷地の住宅

 

住宅地を歩いていると。

道路から細い通路を入った先。
両側にはすでに家が建っていて、その奥にもまた家がある。

今回紹介する「SKY-DECK」は、そんな場所に建つ住宅です。

接道部は約2m。
道路から奥に入った旗竿敷地で、周囲を住宅に囲まれています。

土地だけを見れば、決して条件の良い土地とは言えないかもしれません。

でも、この家を設計した15年ほど前、私はこの場所を見て「難しい土地だな」とは、あまり考えていませんでした。

むしろ、

この場所だから、どんな家ができるだろう。

そんなふうに考えていたように思います。

 

15年前の家を、今あらためて見る

 

この家を設計したのは、もう15年ほど前になります。

今あらためて当時の図面や写真を見返してみると、当時考えていたことが、今の自分の設計にもそのままつながっていることがあります。

そのひとつが、

その場所に馴染む家をつくること。

そして、

そこに暮らす人らしい家をつくること。

これは、今も変わっていないと思います。

家は、そこに突然現れるものではありません。

その土地には、すでに道があり、隣の家があり、向かいの家があり、そこに暮らしている人がいる。

新しく建つ家も、その風景の中に入っていくものです。

だから、建物だけを見て「どんな家をつくろうか」と考えるのではなく、

この場所に、この家が入ったらどう見えるだろう。

そんなことを考えながら設計することが多いです。

 

奇抜に見えるけれど、目立たせたかったわけではない

 

この家の外観を見ると、「個性的ですね」と言われることがあります。

確かに、黒い大きな壁に囲まれた外観は、一般的な住宅とは少し違って見えるかもしれません。

でも、設計していたときに考えていたのは、むしろその反対でした。

周囲には、すでにたくさんの住宅があります。

その中に新しく建つ家が、ことさら自分を主張する必要はない。

だから、外観はできるだけ無表情にしました。

形もできるだけシンプルにして、余計な表情をつくらない。

ただ、無表情なままでは少し冷たい。

そこで、外壁の仕上げを考えました。

 

無表情な建物に、職人の手を残す

 

選んだのは、モルタル塗りの外壁です。

モルタルは、工場でつくられた製品のように、完全に均一な表情にはなりません。

左官職人が鏝を動かして仕上げることで、微妙な凹凸や陰影が生まれます。

同じ材料でも、そこには職人の手による違いが残る。

建物の形は、できるだけ無表情にする。

その代わり、表面には人の手の表情を残す。

そんなことを考えていました。

無表情な外観に、左官屋さんの手の温もりが少し出てくる。

それによって、黒い建物にも、どこか優しさのようなものが生まれればいい。

そんな期待がありました。

 

 

なぜ、艶のある黒だったのか

 

そして、もうひとつ、この外壁には仕掛けがあります。

モルタルの上には、ウレタンの黒を塗っています。

ここで選んだのは、一般的に多い艶消しの黒ではなく、敢えて艶のある黒でした。

艶があることで、外壁に周囲のものが映り込むからです。

空が映る。

太陽の光が反射する。

隣の家も映る。

時間や天気によって、外壁に現れるものが少しずつ変わっていく。

黒い壁を、ただ黒く見せたかったわけではありません。

むしろ、周囲のものを映す壁にしたかった。

 

 

建物が、周囲を映していく

 

建物は普通、自分の形や素材によって、その場所に存在します。

でも、この家では少し逆のことを考えていました。

周囲の環境を、建物の側に取り込んでいく。

空や光、隣家。

本来なら建物の外側にあるものが、外壁に映り込むことで、少しずつ建物の表情になっていく。

そうすると、最初は強く見えた黒い箱が、少しずつ周囲の風景の中に馴染んでいく。

今、あらためて写真を見ていると、少し不思議な感じがします。

外観だけを見ると、個性的で、少し奇抜にも見える。

でも、実際にこの住宅地の中に置いてみると、周囲の家に囲まれて、その存在が少しずつ消えているようにも見える。

それは、当時考えていたことと、どこか重なっています。

目立つための黒ではなく、周囲の中に消えていくための黒。

そう考えると、この外観も少し違って見えてきます。

 

密集地だから、空に開く

 

もちろん、この家の設計は外観だけの話ではありません。

周囲を住宅に囲まれたこの土地では、地面に近いところで大きく開くことは難しい。

隣の家が近い。
視線も近い。
光の入り方も限られる。

だったら、無理に地面で開こうとしなくてもいい。

そう考えて、居住スペースを2階に持ち上げました。

1階には、将来増築することもできる余白を残しています。

「狭い土地だから2階」という単純な話ではありません。

この土地で暮らすなら、

どの高さが一番気持ちいいのか。

それを考えた結果、暮らしを少し上に持ち上げることになりました。

 

 

隣の家ではなく、空を見る

 

2階に上がると、この家の名前にもなっている「SKY-DECK」があります。

周囲には家があります。

だからといって、家の中まで隣の家を意識して暮らす必要はありません。

隣の家を見るための場所ではなく、

空を見るための場所。

そこに光が入り、風が通り、時間によって空の表情が変わる。

密集地だから開放感がないのではなく、

開く方向を変えてみる。

遠くまで視線を抜くことができなくても、上には空があります。

周囲の住宅に囲まれた土地だからこそ、周囲を気にせずに暮らせる場所を、家の中につくることができました。

 

 

「ないもの」を補うのではなく、その土地にあるものを見る

 

土地探しをしていると、

南側が開いている。
道路が広い。
整形地である。
庭が取れる。

そんな条件に目が向きます。

もちろん、それは大切なことです。

でも、すべての土地がそういう条件を持っているわけではありません。

旗竿地だったり、周囲を住宅に囲まれていたり、少し狭かったり。

一見すると、「条件が悪い」と思える土地もあります。

でも、建築を考えるときには、その「ないもの」を補うことだけが答えではないと思っています。

周囲に家がある。

だから、視線を遮ることができる。

地面では開きにくい。

だから、暮らしを上に持ち上げる。

遠くまで見えない。

だから、空を見る。

そうやって、その土地にすでにある条件をひとつずつ読み替えていく。

この家は、そんなふうにできていきました。

 

周囲に馴染むことと、その人らしい家であること

 

私が家を設計するとき、周囲に馴染むことと、そこに暮らす人らしい家であることは、どちらか一方ではないと思っています。

街に馴染んでいるけれど、どこにでもある家。

それでは少し違う。

その人の暮らしがあって、その家にしかない場所がある。

それでいて、街の中に置かれたときには、ちゃんと周囲の風景の一部になっている。

この家では、外観を無表情にしました。

そこに左官職人の手の表情を残しました。

そして、艶のある黒によって、空や光や隣家を映しました。

建物そのものが周囲の環境を受け取りながら、少しずつ表情を変えていく。

一方で、その内側には、周囲を気にせず暮らせるSKY-DECKがある。

振り返ってみると、

「周囲に馴染むこと」と「その家らしさ」を、どう両立させるか。

それを考えた家だったのだと思います。

 

15年前の自分が考えていたこと

 

15年前に設計した家を、今あらためて見返す。

もちろん、今なら違う方法を選ぶところもあると思います。

建築は、その時代や社会、暮らし方と一緒に変わっていくものです。

それでも、ひとつ変わっていないと思うことがあります。

その土地に馴染むこと。

そして、そこに暮らす人らしい家であること。

当時はそれを言葉にしていたわけではないかもしれません。

でも、写真を見返していると、考えていたことはちゃんと建物に残っているように感じます。

それが少し嬉しくもあります。

15年前の自分が考えていたことを、今の自分がもう一度見ている。

そうすると、変わったところと、変わっていないところの両方が見えてきます。

 

土地の選択肢を、もう少し広げてみる

 

土地探しでは、どうしても「条件の良い土地」から探してしまいます。

それは当然のことだと思います。

でも、条件の良い土地だけを見ていると、いつの間にか土地探しの選択肢は狭くなってしまいます。

旗竿地。
密集地。
狭い土地。
周囲を住宅に囲まれた土地。

そんな場所にも、その土地だからできる暮らしがあります。

大切なのは、

「この土地に何が足りないか」だけを見るのではなく、
「この土地には何ができるのか」を考えてみること。

土地を見たときに、そこに建つ家まで一緒に想像してみる。

そうすると、これまで「候補から外していた土地」の中にも、少し違った可能性が見えてくるかもしれません。

土地探しについては、以前の記事でも「土地だけではなく、建築と一緒に考える」という視点について書いています。

建築家と土地を探すという選択

 

密集地だから、豊かな家ができた

 

この家を設計してから、15年ほどが経ちました。

あらためて写真を見ると、黒い外壁に映り込む空や光、周囲の住宅。

その中に、少しずつ建物の存在が溶けているように見えます。

そして、その内側には、周囲を気にせず空を感じながら暮らせる場所がある。

土地だけを見れば、決して恵まれた条件ではありませんでした。

でも、その条件があったからこそ、この家の形になった。

そう考えると、

土地の価値は、土地だけでは決まらない。

その場所にどんな建築を置くのか。

そして、そこでどんな暮らしをつくるのか。

そこまで考えてみると、土地探しの見え方は、もう少し変わってくるのかもしれません。

「良い土地」と呼ばれていない土地の中にも、まだ見えていない可能性がある。

そんな可能性を見つけることも、建築家の仕事のひとつなのだと思います。

 

コンテナデザイン きしもとたかのぶ

 


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