
「中庭がほしい」と言われたとき、私は中庭の話から始めない。
なぜ中庭がほしいのか。
その理由を聞いてみる。
そこには、家の形よりも先に、その人が大切にしていることが見えてくる。
家づくりの打ち合わせでは、「どんな家にしたいですか?」と聞かれることも多いと思う。
でも、私は最初からこの質問をすることはあまりない。
家をつくるのが初めての人にとっては、少し難しい質問だと思うから。
まだ暮らしてもいない家のことを、どんな家にしたいかと聞かれても、自分の暮らしを「家」という形に置き換えて答えるのは、なかなか簡単なことではない。
今は、家づくりについて調べれば、たくさんの言葉が出てくる。
平屋、2階建て、吹抜け、中庭。
回遊動線、ランドリールーム、ヌック、ホテルライク。
SNSには、たくさんの写真と一緒に、家づくりの言葉も並んでいる。
どれも間違いではない。
暮らしを考えるきっかけになるものも多いと思う。
ただ、言葉が先に来ると、少し気になることがある。
例えば、
「中庭のある家がいい」
と言われたとする。
そのとき、本当に必要なのは「中庭」なのだろうか。
もしかすると、外からの視線を気にせずに過ごしたいのかもしれない。
家の中にいても、緑を感じていたいのかもしれない。
子どもが外で遊んでいる様子を、家の中から眺めていたいのかもしれない。
同じ「中庭がほしい」という言葉でも、その理由は人によって違う。
だから私は、言葉そのものより、その言葉の少し奥にあるものを知りたいと思っている。

「休日は何をしていますか?」
「家では、どこにいることが多いですか?」
「今の家で好きな場所はありますか?」
「朝はどんなふうに過ごしていますか?」
そんな話をすることがある。
一見すると、建築とはあまり関係のない話に聞こえるかもしれない。
でも、そういう何気ない会話の中に、その人が大切にしていることが出てくる。
例えば、
「朝、窓から光が入ってくるところでコーヒーを飲むのが好き」
という話があれば、そこには「大きな窓がほしい」という要望とは少し違うものがある。
「庭がほしい」という言葉の中に、
「子どもが庭で遊んでいるのを、家の中から眺めていたい」
という気持ちがあるかもしれない。
そういうところを聞いていく。
家の要望を聞くというより、その人がこれまでどんなふうに暮らしてきたのかを知る。
私にとって、最初の打ち合わせはそんな時間でもある。
もちろん、最後にはそれを建築にしなければならない。
窓の位置を考える。
光の入り方を考える。
庭とのつながりを考える。
部屋の大きさや動線を考える。
構造や予算、法規、周辺環境も考えなければならない。
ただ、聞いた言葉をそのまま図面にするわけではない。
「中庭がほしい」と言われたから中庭をつくる。
「ホテルライクにしたい」と言われたからホテルのような空間をつくる。
それだけなら、設計はもっと簡単だったと思う。
その言葉が何を意味しているのかを考え、土地の条件と重ね合わせる。
ときには、本人がまだ考えていなかった方法も含めて考えてみる。
そうして、少しずつ形が見えてくる。

模型をつくったり、図面を描いたり、素材を並べてみたりする。
そこには、最初の会話から完成した家までの間に、いくつもの「考える時間」がある。
私は、そこに設計という仕事の面白さがあると思っている。
ここで、少しだけ「建築家」という言葉について考えてみたい。
建築士は資格の名前だ。
建築物の設計や工事監理などを行うための資格で、建築士法によってその業務が定められている。
一方、「建築家」は資格の名前ではない。
建築士という資格を持っている人の中にも、さまざまな仕事の仕方がある。
住宅メーカーや工務店の中で設計をする人もいるし、設計事務所で仕事をする人もいる。
だから、「建築士」と「建築家」を、別々の職業として単純に分けられるものではない。
では、なぜ私は自分の仕事を「建築家」と呼んでいるのか。
それは、建物をつくることだけではなく、その建物が建つ場所や意味、そこで暮らす人のことから考えて、建築そのものをつくっていきたいと思っているからだ。
その人がどんなふうに暮らしたいのか。
その土地には何があるのか。
何を残して、何をつくるのか。
まだ言葉になっていないものを、どう建築にしていくのか。
そういうことを考えながら設計する。
私にとって「建築家」という言葉は、資格の違いではなく、建築との向き合い方に近い。
建築家というと、「自分の作風を持っている人」というイメージがあるかもしれない。
確かに、それもひとつの側面だと思う。
ただ、私自身は、最初から答えを持っていることが建築家の仕事だとは考えていない。
土地が変われば、答えは変わる。
暮らす人が変われば、答えも変わる。
道路との関係が変われば、光の入り方も変わる。
周囲の建物が変われば、窓のつくり方も変わる。
だから、最初から「こういう家をつくる」と決めているわけではない。
話を聞いて、土地を見て、条件を整理して、その中から少しずつ形を探していく。

同じような土地でも、そこに暮らす人が違えば、きっと違う建築になる。
設計とは、答えを当てる仕事ではなく、答えを探していく仕事なのだと思う。
これまで私が設計してきた住宅を見ても、形はかなり違っている。
斜面に建つ家もあれば、密集した住宅地に建つ家もある。
中庭を持つ家もあれば、外へ大きく開く家もある。
それぞれに違った形が生まれている。
でも、それは「いろいろなデザインをしている」ということではない。
土地が違う。
周囲の環境が違う。
暮らす人が違う。
だから、必要になる建築も違ってくる。
完成した写真だけを見ていると、その違いは「デザインの違い」に見えるかもしれない。
けれど、その手前には、土地を見て、人の話を聞いて、何をつくるべきかを考えた時間がある。
以前の記事でも、完成した家の写真だけでは見えない、設計の手前にあるものについて書きました。
「作品からは見えないもの。」も、よければ読んでみてください。
SNSを見ていると、素敵な家がたくさんある。
好きな写真を保存していくうちに、
「こんな家にしたい」
というイメージができてくることもある。
それは家づくりの楽しいところだと思う。
ただ、好きな家を、そのまま自分の家にしなくてもいい。
「平屋が好き」でも、敷地によっては2階建ての方が暮らしやすいかもしれない。
「中庭が好き」でも、別の方法で外との関係をつくれるかもしれない。
「ホテルライクな空間が好き」でも、その人が本当に心地よいと感じる場所は、もっと別のところにあるかもしれない。
だから私は、最初から答えを決めなくてもいいと思っている。
どんな家にしたいのか、まだはっきりしていなくてもいい。
むしろ、そこから話を始められることがある。

家の形を考える前に、その人の言葉を聞く。
土地を見て、暮らしを考える。
そして、それらを少しずつ建築の言葉に変えていく。
建築は、まだ「家」になっていないところから始まっている。
その時間こそ、私が考える建築家の仕事なのだと思う。
コンテナデザイン きしもとたかのぶ
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